免許を取ってから2回目の春が来た。



時刻は夜10時。
煌々と明かりの点ったガレージに、優輝が居た。

目の前には、工具セットとレーシンググローブ、ヘルメット、新品のタイヤ2本に、紙切れが1枚。

「えーっと・・・あとは何が要るんだ?」

せっせと何かの支度をする優輝。

「あ、ガムテープとタイラップが要るな・・・壊したくないけど。それから・・・あとイスがあった方が良いかな・・・」


入念な準備は深夜まで続いた。





翌朝、7時。

優輝はサーキットのゲート前にやってきた。

「いっぱい並んでるな〜」

沢山のチューニングカーが、列を作って順番にゲートを潜って行く。
優輝も車を進め、サーキットへと入った。

パドックに車を停める。

「エントリー用紙をお願いしまーす」
係員が順番に用紙を回収している。もうすぐ優輝の番だ。

「エントリー用紙はー・・・お、あったあった」

「エントリー用紙をー」
はい、と言って係員に手渡す。
「星野さん、ですね。エキスパートクラスで宜しいですか?」
「あ、はい。」
「では、コレを」
と、ゼッケンを数枚と、タイムスケジュールが印刷された紙を手渡された。
ゼッケンには「E12」と書かれている。
「3枚あるので、左右ドアとボンネットに貼ってください」
「あー、はい。分かりました」



荷物を降ろし、ゼッケンを貼ろうとする・・・が、隣のAE86を見て焦った。
「あ・・・マスキングテープなんて持ってきてないな」
ゼッケン類はそのまま貼ると剥がすのが面倒なため、マスキングテープ等で囲むように貼り付けるのが普通だ。

「仕方ない・・・」

赤いS14が停まっているピットへ向かって歩く。


「桐谷さん」
「お、星野。どうかしたか?」
S14を磨いていた桐谷がこちらにやってきた。

「えぇ、えーっと・・・マスキングテープ忘れてきちゃって」

「まぁ初めてなら仕方ないさ」
そう言うと、工具箱からマスキングテープを取り出してくれた。
「ありがとうございます、すぐ返しに来ます!」




無事にゼッケンを貼り、テープも桐谷に返した。

「とりあえず準備OK、かな」
と、持ってきた折りたたみ式の椅子に腰をかけたその時。

『D1グランプリ・ストリートリーガル西日本シリーズ第1戦にお越し頂きありがとうございます』
ピットの上などに設置されたスピーカーから放送が流れ始めた。
『これより、Eクラスのドライバーズミーティングを行います。エキスパートクラス参加者はコントロールタワー下に集まって下さい』

「お、行かなきゃ」
優輝も一応エキスパートクラスにエントリーしている。



すでに大勢が集まっているコントロールタワーの下で、優輝もその大勢の中に加わった。
「えー、今日の審査基準ですが・・・」

審査基準の説明、レギュレーションの確認などが行われる。

「予選の前に排気音量測定を行いますので、100デシベル以上出ている人は修復を・・・」

レギュレーションは穴が開くほど何度も読んで来たから知っている。

「では、エキスパートクラスの予選は10時からです」

ミーティングが終わると、参加者はそれぞれの車へと戻って行く。
優輝も車を停めたパドックへと戻った。


車へ戻ると、見覚えのある男女2人が立っていた。
「よぉ」
「久し振り〜」

岡本潤一と仲本里奈だ。

「谷口も後から来るってさ」


しばらく談笑していると、再びアナウンスが聞こえてきた。
『まもなくエキスパートクラスの予選が始まります。車をピットに並べてください』
「お、行かないと」
と言って、椅子から立ち上がる。
「頑張れよ〜」
「しっかり写真撮るからね!」
「おう、じゃあ行ってくる」
そう言ってS15に乗り込んみ、ピットロードへ移動した。


ヴァン・・・ヴァン・・・
すぐ後ろに、真っ赤なS14が停車した。
「お、桐谷さんだ」
すでにストロボを点滅させている。

「あ、そういう事か」

ちょうど1週間前の出来事を思い出した。




桐谷に呼び出されて、今日のための練習に来た日。
ひたすら走り込んで、タイヤも無くなったので帰ろうか、と話していた時。
「悠哉さん、来週はアレ、やらないんですか?」
RED PASSIONのメンバーで、名前は確か・・・渡邉 彰。赤いS13の人だ。
「アレって何ですか?」
と聞くと、桐谷が応えてくれた。
「コースインパフォーマンスだよ。D1のDVDにも映ってるアレ。もちろん今回もやるつもりさ」
「パフォーマンスって・・・どんな事するんですか?」
「俺らはいつも団体ドリフト。多いときは8台くらいで」
「へぇ・・・」
「順番はどうします?」
渡邉の質問に、桐谷は少し考えると、
「じゃあ星野が先頭で、俺・お前の順で行こう」
「了解でーす」
「まぁ、ストリートリーガルは初めてだから、どこまで自由に出来るか分からないけどな」





・・・という事は、今S14の後ろには・・・やはりS13があった。

「コースイン1分前でーす!準備をお願いしまーす!」
メガホンを持った係員が叫んでいる。

「いよいよか・・・」
ヘルメットとレーシンググローブを身に付け、シートベルトを締め直す。
そして貸して貰ったトランシーバーのイヤホンを繋ぎ、スイッチを入れた。

ヴォン!ヴォン!ヴォォォン!

一斉にピットロードが騒がしくなった。

『いい?印象が大事なんだから、全開で1コーナーに突っ込んで!』
イヤホンからRED PASSIONのスポッター係の声が聞こえてきた。・・・今度名前を聞いておかないと。
「もちろん!」
「了解!」
後ろの2人が応えている。
「・・・分かりました!」

クラッチを踏み、アクセルを煽って5000回転をキープする。

前に停車していたR32スカイラインが動き始め、・・・コースへと飛び出した。

『よし、星野君GO!!』

クラッチペダルから足を離し、ガツンッ!とアクセルを一気に踏み込んだ。
すぐに1コーナが迫ってくる。

ハンドルをコジり、クラッチを蹴る!アクセルを踏む!
『いい感じいい感じ!』
とにかくツインよりも大きなライン取りを心がけ、綺麗な弧を描く。
後ろの2台も綺麗に、しかもビタビタの距離で追いかけて来ていた。

そのまま2コーナーを回り、待機場所である中ストレートに車を停めた。

順番に1台ずつコースを走り、審査員が得点を付ける。40台以上いる中から、決勝に進む8台を選び出すらしい。

とりあえず順番はまだ回ってこないため、車の外で待つ事にした。






第8章 完

第9章

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