優輝の耳元で携帯が鳴っている。

「・・・ん・・・メールか?」

布団の中から手を伸ばし、携帯を開いた。
「まだ9時だろ・・・日曜くらいゆっくり・・・って、桐谷さんから!?」

桐谷からメールを送ってくるなんて珍しい、と思いつつメールを見た。

「今日、いつものサーキットでジムカーナの大会があるから見に来い・・・か」

しばし返信の文章を考える。

「昼までには行きます・・・っと」

携帯を閉じて、布団から出た。

「う・・・さみぃ・・・」


そろそろ雪が降ってもおかしくない時期だ。



適当に朝食を済ませ、ガレージに向かった。


運転には慣れた。外観もだいぶ見慣れた。しかし、
「やっぱ派手だよなぁ・・・」

と言いつつ、その青いS15シルビアに乗り込んだ。

「よし、出発」



昼前の国道を快調に飛ばす優輝のS15シルビア。

見慣れた道も、時間帯が違うと別の景色に見える。



最近付けたばかりのオーディオでお気に入りのCDを聴きつつ、車を走らせること40分。
サーキットに到着した。

いつも通りゲートで料金を払い、駐車場に車を停めた。

とりあえずゲートで貰ったパンフレットに目を通す。
「全日本ジムカーナ選手権、か・・・。まぁ行ってみるか」

車を降りて、桐谷を探す。

駐車場にS14は無かった・・・が、意外なところにあの真っ赤なS14があった。
「ここって・・・参加車両駐車場?」
「よう、来たな」
不意に声を掛けられた。
「あ、桐谷さん。これって・・・今日は走るんですか?」
「まぁ、そういうことだ。ジムカーナはドリフトに応用できる事も多いしな」
「へぇ・・・あ」
2台の車が目の前を通過し、近くのピットに入った。
「あれは・・・」
「ん?何だ?」
「いや・・・あのエボ[と34のGT-R、知ってますか?」
「さぁ・・・でもピットを使ってるってことは、シリーズランキングでも上位なんだろ」
「そうですか・・・」
「まぁ、色々見て回ってみろよ」
「はい」

桐谷と別れ、真っ直ぐに先程の2台の所へ向かった。

「やっぱり・・・この前見たやつだ」
迷惑にならない程度の距離を保ち、観察する。

ランサーエボリューション[MRは黒。2枚羽のGTウイングとカナードが目立つ。
BNR34スカイラインGT-Rは純正よりも濃い青で、ニスモのフルエアロにGTウイングだ。
もちろんどちらも履いているのはSタイヤ。

「すげぇな・・・」
「何見てんの?」
「へっ?」

振り返ると・・・見覚えのある顔があった。

「た、谷口?」
「そうよ。居ちゃ悪い?」
「いや、別に。」
「そう」


話しているうちに、走行が始まった。

ランエボ、NSX、GT-Rなど、ドリフトではあまり見かけない車がたくさんエントリーしている。






大会はあっという間に進行し、時刻は4時。

「やっぱりドリ車じゃ無理があるな〜」
桐谷が優輝の横で言った。
「1回戦敗退・・・さすがに悔しいぜ」
そう言うと、S14のまわりに散らかった荷物を片付け始めた。

表彰台は1位がプロのレーサーだった。

そして2位・3位は先程のエボとGT-R。

「やっぱり速かったな・・・」
「そうだね・・・」
谷口も同じ考えらしかった。






帰ろうと思ってS15に乗り込むと、谷口の180SXが横に並んできた。
「今日、これから暇?」
「あぁ、暇だけど?」
「じゃあ山行かない?」
「んー・・・いいぜ」

じゃあ行こう、と言いかけると、

「その話、俺も乗った」

「あ、桐谷さん」
「今日負けたストレスを発散しに行く」

そう言って、S14に乗り込んで走り去っていった。

「じゃあ、俺らはメシでも食ってから行くか」
「そうね」


前にシルビアで行った時は昼だったなと思いつつ、ファミレスに、そして峠に向けて2台で走り出した。








峠道に差し掛かった所で、ドリフト走行を始めた。

後ろを走る谷口も、しっかり横向きでついてきている。


各コーナーには、何人かギャラリーが集まっていた。


その中で、動く光がひとつ。
対向車が来ていたら懐中電灯を振るのが、この峠の暗黙の了解だと桐谷から聞いたことがある。

ハザードを点灯させ、ゆっくりと停車した。


派手な爆音と共に、下りを攻めている車が横向きでコーナーを抜けてきた。
ライトが眩しい。

聞き覚えのあるRBサウンド・・・

「あれは・・・!!」

暗くてよく見えなかったが、あれは確かに・・・今日サーキットで見たばかりのBNR34型スカイラインGT−R。

重量級4WDを、FR車のように振り回してコーナーを抜けていった。


ヴォン!ヴォン!

後ろから谷口が煽ってきた。

「あぁ、そうだ・・・とりあえず上に行ってみるか」

再びS15のアクセルを踏み込み、ドリフト走行で山の頂上を目指す。


しかし・・・

「ん・・・?」
谷口がライトをチカチカとパッシングしている。
「もっとペースを上げろってか?」

ドリフトアングルを浅めにし、スピード重視の走りに切り替えた。
バックミラーを見ると、谷口はしっかりとついて来ている。
そして・・・その後ろにもう1台・・・いや、2台。
「な・・・何だ!?」

もうすぐ頂上だ。それまで抜かれずに走りきりたい。

しかし、優輝のすぐ後ろで順位が入れ替わった。
180SXの前に出てきたのは・・・恐らくランエボ。状況から考えると、多分サーキットで見た黒いエボ[だ。

だとすると、今谷口の後ろに居るのは折り返してきたBNR34。

超人的な速さだ。


「クソッ・・・抜かせるか!」

もうすぐ最後のコーナーを抜ける。

優輝のS15はインベタで、黒いエボ[はアウト側を通り、2台が並んで・・・エボの方が僅かに早く・・・駐車場前のストレートに入った。

そのエボ[はそのまま反対側の下り坂へと走り去って行った。
想像通り、BNR34もその後に続く。

「はぁ・・・はぁ・・・・・何なんだ、あいつら・・・」

メーターに目をやると、油温・水温ともに100度を超えていた。

「とにかく休憩〜・・・」


駐車場に車を停めて車外へと降りた。
全開で走ったチューニングカーの中は暑い。

ヴォン・・・ヴォン・・・

谷口も優輝のS15の隣に車を停めて降りてきた。

「ったく、何なのよあいつら!」

「けど・・・速いのは確かだ」

「まぁ・・・ね。」



ヴォォォォオオ・・・・・

「この音、桐谷さんかな」
フルチューンSRのサウンドが響いてきた。


今日は、頂上の駐車場にも結構な台数が集まっている。


爆音が登ってくるにつれて、次々とギャラリーが歩道へと移動する。


「前もこんな感じだったな・・・」

「前って?」

「初めて桐谷さんに会った時」

「へぇ・・・」


そして、その時と同じ車が、同じようにコーナーを駆け抜け、同じように駐車場に入ってきた。

「よう、もう来てたのか」
桐谷がウインドウを下げて話しかけてきた。
「えぇ、まぁ」
「じゃあ、ツインの練習だ。付き合え」
「トリプルじゃダメ?」
谷口が会話に割って入ってきた。
「じゃあ・・・俺が先頭、星野が真ん中、お前は最後な」
「分かった。」
「公道だから、ミスの少ない順ってことだな」
優輝が口を滑らせた。
「何よそれ?」
「べ、別に〜」

優輝たちは車に乗り込み、桐谷の後に続く。



夜明け前まで走り込んだ。


・・・明日も仕事だということは忘れていた。


第8章へ


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送