病院の玄関前で待つこと15分。

「遅いな〜・・・」

夏の日差しもそろそろ弱まり、空を仰ぐと雲が遥か高い所を漂っている。

時刻はもうすぐ10時。


ヴォン、ヴォン・・・・

病院という公共施設には全く似合わない車が近付いて来た。

黒いJZX100マークU。
VERTEXのエアロを身にまとい、クロームメッキのホイールが眩しい。

その後ろにもう1台、白いJZX90マークU。
前者と同じくVERTEXのフルエアロだが、こちらはいつの間にかGTウイングが装着されている。

病院の玄関前に2台並んで停車した。
「おう、お待たせ」と、黒いJZX100から手を振る岡本。
白いJZX90からは「久し振り〜」と仲本がガラス越しに手を振っている。
とりあえず岡本の車の後部座席に荷物を放り込み、助手席のドアを開けた。
「よし、行くか!」
「おう!」

意気揚々と、――白い目で見られながら――爆音とともに2台のチューニングカーが病院から出て行った。





20分ほど走ると、赤い看板が見えてきた。
「お、あれあれ」
岡本は1件のチューニングショップの前に車を止めた。
仲本もその後ろに車を止めている。

岡本が、何故か慣れた感じでピットへと入っていく。
「こんにちは〜」

ピットにはBNR34とハチロク、見覚えのある赤いS13などが置いてあった。

「お、やっと来たか」
と、奥から見覚えのある顔・・・
「おっちゃん!?」
「何だ、居ちゃ悪いか?」

「ははは、威勢がいいですねぇ」
と、もう一人、メガネをかけた男が出てきた。
「あ、えーっと」
優輝が戸惑っていると、大橋が説明してくれた。
「コイツが一応この車屋の社長、城島だ」
「一応とは酷いですねぇ」
「ん?」
「いや別に。さて、桐谷君が認めた『星野君』っていうのは君ですね?」
「え?あぁ、は、はい」
急に話を振られて舌がもつれた。

「とりあえず、支払いについて話し合いましょうか。事務所へお願いします」
「分かりました」





話が済むと、妙なテンションでガレージへ向かった。
(はぁ・・・・4年のローン生活か・・・)
確かに新しい車が手に入るのは嬉しかったが、金銭面を考えると少し厳しい。



ガラガラ、と音を立ててシャッターが開く。

「これです」
「す・・・すげぇ・・・」
そこに姿を現したのは、青いS15シルビアだった。

「どうぞ、乗ってみて下さい」
「は、はい」
城島に促され、運転席に乗り込んだ。
シートポジションを少し調整し、ハンドルを握ってみる。
「おぉ・・・良い感じです」
「それは良かった。もう登録も済ませてありますから、乗って帰って下さい」
「はい、そうします」

キーシリンダーに手を掛け、ひねる。

セルの音が響き、エンジンが・・・動き始めた。

ボ、ボ、ボ、ボ、ボ、ボ・・・・・

ゆっくりとアクセルを踏み、ガレージから店の正面へと車を移動させる。
岡本のマークUの横に並べた。

降りてじっくりと眺める。

真っ青ではなく、少しメタリック系の色だ。
キャンディブルー、と言う色らしい。
優輝には塗装のことは良く分からなかったが、塗るのが難しい色だと聞いた。

そして・・・大小の白いステッカーがボディ側面に整然と並んでいる。
しかもかなり派手なフルエアロを纏って。
これで街中を走るのはかなり爽快だが、恥ずかしい気もした。


「優輝、そろそろメシ食いに行こうぜ」
岡本と仲本が、それぞれの車に乗り込もうとしている。
「メシ?・・・って、もしかしてファミレスとか?」
「あぁ、この先にあるファミレス」

それはつまり、まさか・・・

「・・・この車で?」

「良いじゃん、格好良いんだから」と仲本。

「はぁ・・・じゃあ行くか。」

「よし、じゃあ先行くぜ〜」
キキキキキィィィィ!!
と、岡本がホイールスピンさせながら・・・―おそらく全開で―・・・国道へと飛び出していった。
仲本も後に続く。

「それじゃ、ありがとうございました!」
城島に礼を良い、優輝もS15に乗り込んだ。

ヴォン、ヴォン、ヴォォォォオオオオ!!!

道が空いていた事もあり、2台のマークUの姿はすでに見えなくなっていた。

「とりあえず追いつかないとっ」

優輝もほぼ全開で後を追った。



1分ほど走ると、白いマークUが見えてきた。

「よし、やっと追いついた・・・ん?」
ふとバックミラーを見ると、何かがピッタリと後を追って来ている。
「けっこうハイペースだったのに・・・誰だ?」
距離が近すぎて車種が分からない。

2人に追いつくため、そして後ろの車を引き離すために加速した。

すると、バックミラーに1台の車がハッキリと写る。

「あれは・・・180SXか」
青いボディの180SXだった。

が、すぐに背後まで迫ってきた。

「くそッ・・・」
スピードメーターの針は120を過ぎている。
いくら道が空いているとは言え、ここは国道だ。これ以上はまずい。


どうなるかと思ったが、ここで目的地のファミレスが見えてきた。
前を走る2台のウインカーが光り、駐車場へと入って行く。

「ふぅ・・・到着」
と、優輝がウインカーを光らせた途端、青い180SXは凄い勢いで優輝のS15を追い抜いて行った。

「・・・何だったんだ?」





ファミレスで空腹を満たすと、そこで解散となった。

「さて・・・どうするかな」
バイトは明日からだ・・・つまり、今日は暇だ。

とりあえずS15に乗り込む。

「・・・よし、・・・行ってみるか」







30分ほど車を走らせ、ある場所にやってきた。



とある峠道。



昼間に来るのは初めてかもしれない。



車から降りた。



目の前には、ボロボロのガードレールの残骸と、粉々のガラスと、オイルが漏れた跡と・・・血の跡と。



城島に言われた言葉を思い出した。

『以前の180SXに比べたら、格段に戦闘力のある車です。少々無理をしても、どうにかなるでしょう』

「どうにかって・・・」


S15と向き合った。


「走ってみろ、ってか・・・」



S15に乗り込み、頂上を目指す。



とりあえず駐車場に入った。

あの日、真っ赤な車が整然と並んでいた駐車場。



ヴォォォォォォォ・・・・

シフトは1速。クラッチを踏み、回転数を上げる。

ヴォォォオオオオ・・・・

5000回転に到達した瞬間、

キキキキキキィィィィイイイッ!!!!

S15の後輪が悲鳴を上げ、空転を始める。

そのまま、その車体は綺麗な円を描き始めた。


無意識のうちに、円を大きくしたり小さくしたり。

「何だ、これ・・・」


自由自在。


「どうにかなる・・・こういう事・・・かな?」


自信がついた。


「よしっ!」
S15は後輪から白煙を上げ続けながら、駐車場から出て行った。


第5章 完
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