「ここは・・・何処だ?」


目を開けると、見慣れない真っ白な天井が見えた。

どうやらベッドに寝かされているらしい。

「ここは・・・」


すぐ横に人の気配を感じた。

「良かった、目が覚めた!!」
女性の声だが・・・聞き覚えは無い。

「あの・・・誰・・・?」

女性はハッとなって、さっきまで座っていた椅子に座り直した。

「とりあえず・・・あなた、どんな運転したわけ?」

「あぁ、そうだ、俺・・・じゃなくて、あんた誰?」

「私は谷口涼子。たまたま事故現場に遭遇して、応急処置してあげただけ。」
歳は優輝とあまり変わらないように見える。

「・・・で、何でその谷口さんがここに?」

「死にそうな人間を応急処置だけしといてバイバイって訳にはいかないでしょーが」
彼女は長い黒髪をいじりながら、淡々と話す。

「はぁ・・・あ、俺どのくらい眠ってたんですか?」

「2日くらい。てか、敬語使わなくていいから」
「あ、ごめん」

ガチャっと音がして、病室に人が入ってきた。

「お、目が覚めたか。早いな〜」
と、いつもの調子で余っていた椅子に腰掛けたのは、
「なんだ、潤一か」
岡本潤一だった。
「悪かったな〜俺で」
「いや、そういう意味じゃなくて」

はいはい、と、谷口が会話に割って入った。

「岡本君、180SXで使えそうなパーツはあった?」
どうやら優輝の180SXの事らしい。

「それが、使えそうな物は全然無くて・・・内装は血まみれだし」
「あぁ・・・」

「なぁ、俺の180SX、どーなったんだ?」
さすがに気になるので聞いてみた。

「そりゃ、廃車だろ。間違いなく」

「そうか・・・」


ガチャ、と、再びドアが開く音。

「お、意識が戻ったのか」
「桐谷・・・さん!?」
意外な人物の登場に驚いてしまった。

「どうでした?」
岡本が桐谷に聞いた。何の事だろう。

「あぁ、社長に聞いたら、S15かFCかハチロクならすぐに用意できるらしい」
「そうですか!良かったな〜優輝」

俺の話題なのか?

「えっと、何の話?」
あぁ、と、その場に居る3人が苦笑した。

「お前の180SXは俺とのバトルでクラッシュして使えなくなった・・・だから、俺が代わりの車を探してやってたんだ」
「あぁ、なるほど」
そこまでしてくれなくても良いのに、と思ったが、桐谷の話にはまだ続きがあった。
「で、俺達が世話になってるキャッスルオートっていうショップの社長に聞いたら、さっき言ったS15、FC、86ならすぐに納車できるってよ」

「有り難い話だろ、さぁ〜選べ」と岡本。



「いや・・・ちょっと待て、金は?」

これには谷口が答えた。
「保険金かローンか・・・どうにかなるでしょ?」
「うっ・・・」
確かに、どうにもならない訳ではない。


・・・走り屋を辞める気も無い。







走り続けたい。





「・・・そのS15の仕様は?」
桐谷に問うと、紙を3枚渡された。
「そう言うと思って、3台ともスペック表書いてきてやったぜ」
「ありがとうございます!」
早速、S15のスペック表に目を通す。
・・・さり気なく値段も書いてあるが、見ないことにした。
「外装純正・・・GT-RSタービンで350ps仕様か・・・」

「どうする?」
まるで自分の車の事の様に目を輝かせて岡本が聞いてきた。

「何か付け足したい物が有れば、退院までに仕上げてくれるそうだ」
と桐谷。


「じゃあ、このS15に・・・・」

自分でスペック表に注文を書き足す。


「これでお願いします」

桐谷が目を通す。


「よし、分かった!」
桐谷が笑顔で答えてくれた。





今日は皆これで帰ると言う。

病室を出て行く3人を見送り、ベッドに戻った。


「退院まで1週間か・・・」

長い。長すぎるようにも感じる。

「・・・楽しみだな」






次の日の夕方、谷口が一人で病院にやって来た。
「やっほー、元気?」
「元気じゃ無いから病院に居るんだろ」
「まぁ、そりゃそうだけど」
「で、何か用?」
と聞くと、携帯の画面をこちらに向けてきた。
「今日、キャッスルオートに行って写メ撮って来たよ」
画面に映し出されているのは、白いS15だった。
バンパーはおろかドアまでもが外され、まさに「製作中」といった感じだ。

しばらくして携帯を閉じると、
「じゃ、私はこれで帰るから」
「早っ!」
「それじゃお大事に〜」
ひらひらと手を振って、谷口は病室から出て行った。

「はぁ・・・」








そして退院前日の正午過ぎ。


ゴンゴン、とノックの音。
「入るぞ」
と言って入ってきたのは、
「あ、おっちゃん」
「よう。元気そうだな」
大橋自動車代表、大橋實だった。
「今日、城島んとこに行ってきたぞ」
突然切り出された話は理解出来なかった。
「城島?」
「あぁ、キャッスルオートの社長だ」
「え、知り合い?」
「ヤンチャやってた頃の後輩と言うか、何と言うか」
「へぇ・・・」
意外だったが、お世話になっている人が知り合いの旧友というのは都合が良い。

「で、これでも食っとけ」
差し出されたのはフルーツ盛り合わせ。
「あぁ、ありがと」
980円の値札が付きっぱなしなのは言わないでおこう。

「それじゃ、俺は帰るぞ」
と言って、大橋は病室から出て行った。





そして夜。



明日は退院。


S15と初対面。



楽しみで寝られない、こんな気分はいつ以来だろう。



最後に時計を見たのは、午前2時を回った頃だった。





第4章 完

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