「ありがとうございました〜!」
威勢の良い声を響かせ、給油客を見送る。
ここは優輝のバイト先であるガソリンスタンド。

「ふぅ・・・今日もそろそろ終わりかな」
時計の針は午後10時を指していた。
「店長、そろそろ閉店時間です」
常連客と話し込んでいた店長が振り向く。
「おぉ、お疲れさん。帰っていいぞ」
「はい、お疲れ様でした〜。」
と、いつもの挨拶を交わして次のバイト先であるコンビニへ。

・・・しかし、今日は違った。休みの連絡は昨日入れておいた。

いつもとは逆方向、峠のふもとにあるコンビニへと急ぐ。
潤一との待ち合わせまではあと30分もあるが、急がないと気がすまない。
焦っているのか緊張しているのか、自分でも良く分からない。

コンビニに着いたが、やはりマークUは無かった。
「何か飲んで、ちょっと落ち着くか・・・」
適当に缶コーヒーを買い、180SXのボンネットに腰掛けて飲んだ。
「こんなポンコツで勝てるかな・・・」
先週見た『RED PASSION』の4台は、見るからにキッチリとチューニングしてあった。
しかし、自分の180SXは・・・
「あ〜やめやめ!なるようになるって!」と、心の中で強く思う。

そうしているうちに、遠くからチューニングカー独特の音が聞こえてきた。

ヴォォォォォ・・・・・

段々と近付いてくる。
思わず道路の方に目をやったその瞬間、

ヴォォヴォォヴォォヴォォヴォォヴォォヴォォ・・・

S14、S13、HCR32、S14、180SX 、FC3S、S13・・・まさにチューニングカーの行列。
その数ざっと10台・・・いや、それ以上か?

「赤い・・・全部真っ赤だ・・・、・・・!」
最後を走るS14には見覚えがあった。
「桐谷・・・」
こちらには気付かなかったらしく、そのまま峠の方へと向かって行った。

そのすぐ後ろから、少し違ったエンジン音を響かせてもう1台が近付いて来た。
よく聞き慣れたJZエンジンの音・・・想像通り、岡本のマークUだった。
ウインカーを出して駐車場に入ってくる。
キセノンの光が眩しい。
「おう、早いな」
「お前もな・・・今日は仲本は来ないのか?」
「あぁ、女友達と飲み会らしい」
「おいおい・・・良いのか?」
「良いんじゃね?」

苦笑しつつ、本題に入る。

「さて、行こうぜ」
岡本に言われ、気持ちが切り替わった。
「おう!」

白い180SXと黒いJZX100。

2台で連なり、真っ暗な峠道を上って行く。

アクセルを踏む足にはいつの間にか力が入り、あっという間に頂上へと近付いて行く。



時刻は午後11時。





2つのエキゾーストサウンドが、徐々に上へ上へと上がってくる。

「この音・・・1台はシルビア系だな」
真っ赤なS14シルビアの横に立っていた男が呟く。

「もう1台はツアラーか・・・間違いない」

頂上のパーキングには、ざっと20台の車が整列していた。
全ての車がキャンディレッドに塗られ、不気味なほどに美しい。


ヴォン!ヴォン!
2台の車がパーキングに入ってきた。

適当に駐車すると、それぞれのドライバーが車を降りる。

「久し振りだな」
S14の横に立っていた男・・・桐谷悠哉が2人に声を掛ける。
「1週間前に会ったばっかりですよ」
180SXのドライバー、星野優輝がそれに答えた。

「それじゃ、早速だけどルールを説明するから、こっちに来てくれ」
そう言われ、2人は『RED PASSION』のメンバーと共に桐谷の回りに集まった。


バトルのルールは単純だった。

コースは下りで、コーナーは全部で8箇所。
対戦相手は何と桐谷。
全コーナーをドリフトで走ることを条件に、前後に並んで同時にスタート。
スタートのカウントは岡本が引き受ける事になった。
勝敗は、ゴール時にタイム差が離れていれば先行の勝ち、離れなければ後行の勝ち。
これを順番を入れ替えながら繰り返し、3本先取で決着をつける。
ちなみに、全てのコーナーとゴール地点にRED PASSIONのメンバーが待機しているとの事だった。



「じゃあ早速だけど、1本目は前と後ろどっちが良い?」
桐谷に問われた。
「後ろが良いです。」
「分かった。じゃあ車を並べて。メンバーは配置に」
はいっ、という声が響くと、RED PASSIONのメンバー達が散っていく。
優輝も180SXに乗り込み、駐車場横のストレートに車を並べた。

少しも待たないうちに、目の前に派手なS14が停車する。

「いよいよか・・・」
準備が整ってしまうと、かなり緊張してきた。

「じゃあカウント行きます!」

岡本の声がした。

シフトを1速に。

「3・・・2・・・」

クラッチを踏んだまま、アクセルを踏んで5000回転をキープ。

「1・・・ゴー!!」

クラッチをつなぎ、アクセルを踏み込む!

ヴァァァァアアアアアアン!!

スタートは桐谷に負けていない。

すぐに1コーナーが迫ってくる。

ガッとクラッチを蹴った。
180SXは綺麗な弧を描き、S14のすぐ後ろを駆け抜ける。
「よし・・・行ける!」

そのまま順調に3つほどコーナーを抜けた先は、急に視界が開けてストレートになっていた。
この先は道幅の広い高速コーナーだ。
上級者なら4速でもドリフトできるらしい。
もちろん桐谷は上級者であって・・・

ヴァァァアアンッ、ヴァァァァアアアア

目の前のS14が4速にシフトアップし、さらに加速していく。

優輝はいつもなら3速キープなのだが・・・

「くそっ、負けるかァ!!」
シフトノブを4速に叩き込む!

桐谷のS14が凄まじいスピードでコーナーに飛び込んで行く!
優輝もその後に続く!・・・はずだった。

ドリフトは出来た。しかし、走行ラインをアウトに向け過ぎた。
その先には白い物体・・・ガードレールだ。
ガードレールが迫っている。

いくらブレーキを踏みつけても、180SXが止まる事はなかった。


ガシャンッ!ガンッ!ガンッ!ガガガガ・・・ガッ・・・ゴッ・・・ゴンッ・・・ガンッ・・・・・・ガシャンッ!!!!


優輝の180SXはガードレールを突き破り、その下・・・その直後に通るはずだった道へと転がり落ちた。


「ぅ・・・・・・痛っ・・・・・・・」






ヴォォォオオン、ヴォォォ、キィィィィイイイイ!!!


1台の車が近付いてきた。

桐谷か・・・

「君!大丈夫!?」

いや、女の声だ。誰だろう・・・

「こんなに血が・・・ちょっと、意識はある!?」

俺、そんなに血まみれなのか・・・?


ヴォォォオオン、ヴォン、ヴォン

シルビアの音・・・桐谷か・・・

「おい!生きてるか!?」

一応な・・・

「あなた、この人の知り合い?」
「あぁ、あんたは?」
「私はたまたま通りかかっただけ。一応看護学生だから、なにか協力できるかも」
「じゃあ、とにかく応急処置だ!」

桐谷がねじ曲がったドアをこじ開ける。

「動かさないで!」

その女性も近付いてきた。

「何か縛れるもの、えーっと・・・薄手の服とかタオルとかある?」


「これでいいか?」


「OK!」


何かが体に触れる感覚があった。




「これで出血は止まった。脈は・・・OKね。」








「救急車は今呼んだぞ」













そこで俺の意識は途絶えた・・・







第3章 完

第4章


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