ピピピピピ、ピピピピピ・・・・・

頭の近くで何かが鳴っている。
「ん・・・・」
目を開けると、数字の羅列が見えた。
「あ・・・8時20分・・・・・・」
脳ミソのスイッチが入った。
「や、ヤッベェェェェエエ!!!」



あれから3ヶ月。

季節は夏。


優輝は峠に通い、徐々に腕を上げつつあった。


今日はバイトが休みのため、岡本とサーキットに行く予定だったが・・・
「待ち合わせは8時半・・・急げば間に合う・・・と思う!」

とりあえず顔を洗い、適当に着替え、必要な荷物を180SXに投げ込むと、そのままの勢いで180SXに乗り込んで出発した。
朝の住宅街で全開はマズイ・・・そんな思考は忘れている。


待ち合わせのコンビニに着いたのは8時35分。
すでに黒のJZX100マークUと、何故か白いJZX90もあった。
「遅い」
と、岡本が一言。
「悪い悪い・・・ってか、何で仲本まで一緒なわけ?」
「居ちゃ悪い?」
「あ、いやそういうわけでは」

他愛も無い会話の後、昼食用の食料を買って出発。
優輝はサーキットを走るのは初めてだ。
朝の国道を走りながら、だんだんテンションが上がってきた。


40分ほど走って、峠道を登りきった所でサーキットが姿を現す。

ゲートで走行料金を払い、コースへと移動。
思ったよりも小規模だ。平日で走行車両が少ないため、そう感じるのかもしれない。

適当なピットに車を止める。


そこで目に入った物は・・・



真っ赤なシルビアが4台、すでにコースを走っている。
S14後期が1台と、S14前期が2台、S13が1台。
中でもS14後期は異彩を放っていた。ケタ違いの白煙がギャラリーの目を引く。

「なぁ、あのS14って・・・」
岡本に尋ねた。
「あぁ、桐谷だな。てことは、あとの3台もRED PASSIONのメンバーかな」
「そうか・・・」

『RED PASSION』が練習に来ている。
思いがけない再開に、優輝は少し緊張してしまった。


ひとまず予備のタイヤや工具を下ろし、走行準備を整える。
先日買ったばかりのヘルメットとグローブを身に付け、バケットシートに身を沈めた。

「まずは控えめに走ってみようかな・・・」
そう考えつつ、ピットロードに移動。

ガツンとアクセルを踏み込み、180SXはコースへと躍り出た。
「1コーナーは大きく右へ、2コーナーも右。3は左で、4が右ヘアピン・・・」
最初の1周でコースの感覚を掴む。
2周目のメインストレートで加速し、1コーナーは逆振りからドリフト体勢に持ち込む・・・が、あっけなくスピンしてしまった。
「あちゃ〜・・・」
とりあえずその場から離れなければ渋滞してしまう。
そう考えた優輝は、シフトをバックに入れた・・・その時、

ヴォォォォオオ!!

先程の赤いS13が1コーナーに飛び込んできた!

「危ないッ!」
優輝がそう叫ぶ・・・が、そのS13は自らスピンし、そのまま何事も無かったかのように2コーナーへと消えて行った。
「すげぇ判断力・・・」

その後も何度かスピンしたが、何周か走ると段々コースに慣れてきた。
峠で培ったドリフトの感覚は、間違っていなかったらしい。


昼休みを挟み、午後3時を過ぎた。


午後に入ってから、もうずいぶんと走り込んだ。
今なら頑張れば1周全部ドリフト出来るかもしれない・・・が、そろそろ水温が厳しい。
2周ほどクーリングしようと思い、ハザードを点けてスローダウンする。

「ふぅ・・・あちい・・・」
さすがに夏場は車も人も暑さにやられる。
サーキットを走ると、嫌でも味わわせられる感覚だった。

2周目のクーリング走行で、優輝はバックミラーに写るモノに気付いた。
赤いボディ、ツリ目のヘッドライト・・・S14後期型。
朝から気になっていた『RED PASSION』のリーダー、桐谷だ。
ゆっくりと周回する優輝の背後にピッタリとついていた。
「何なんだ・・・?」

とりあえず水温が落ち着いてきたため、優輝はメインストレートで再びアクセルを強く踏みつけた。
桐谷も狭い車間距離を保ったまま加速し、少しマシンを右に振る。
優輝はそれを確認したが、そのまま1コーナーに向かって行く。
不思議と恐怖感は無かった。
先程までの練習どおり、逆振りから右コーナーへと進入する。
桐谷はその数メートル後ろで、メインストレートで横に振った状態を維持しながら、優輝と同じ角度・スピードでドリフトに持ち込む。

優輝はバックミラーをチラッと見たが、そこにS14の姿は無かった。
が、ガラス越しに真横の風景が目に入った時、不思議な興奮を覚えた。

桐谷のS14が、すぐ真横で、ドアとドアが当たりそうな距離でドリフトしている。

そのまま2コーナーを抜けると、桐谷はショートカットコースから前へと行ってしまった。
「何だか分からないけど・・・すげぇ、何だ今の・・・」

バタバタバタバタ・・・
「あ、タイヤ逝った」
剥がれたゴムがフェンダーを叩く音が車内に響く。
すぐにピットに戻り、タイヤを交換する準備にかかる。

・・・が、仲本が話しかけてきた。
「凄かったよさっきのツインドリ!」
「あ、・・・今の、ツインドリだったんだ?」
「当たり前じゃない!」
仲本にデジカメの画像を見せられ、自分でも驚いた。
そこに写し出されている画像は、『D1』さながらのツインドリフト。
自分のポンコツ180SXと、桐谷の綺麗なS14という微妙な組み合わせではあったが・・・。

「良い写真だな」
不意に背後から声を掛けられて驚いた。
振り向くと、そこには・・・
赤いレーシングスーツに大きく「RED PASSION」の文字。
桐谷悠哉だった。
「君がこの180SXのドライバー?」
「あぁ、はい。」
「さっきはスマンな」
「いえ、大丈夫です」
ぎこちない会話のあと、さらなる驚きがあった。
桐谷が何か思い切ったような表情になったと思うと、

「俺らのチームに入らないか?」

「えっ?」

「だから・・・RED PASSIONに入ってくれないだろうかと」

「マジですか!」
「あぁ。まぁ、簡単な入団テストは受けてもらうけどな」
「はぁ・・・」

驚きと嬉しさと戸惑いを隠せない優輝。
いつの間にか桐谷の言葉に聞き入っていた。

桐谷の話はこうだった。
次の土曜・夜11時に、あの時の峠で『RED PASSION』のメンバーとバトルする。
そこで勝てば、チーム入団が認められる。
ルールは当日、その場で説明する。
入団することが出来たら、一緒にドリコンに参加しよう、との事だった。

「あ〜それから、何かあった時のために、友達の走り屋連れてきて」
と、まだ走っている岡本のマークUを指差す。
「はい、わかりました」
それじゃ、と言って、桐谷は自分のピットへと帰って行った。

「何かとんでもない事になったな〜・・・」




片付けをしながら、桐谷の話を岡本と仲本に伝えた。
付き添いはOKで、ひとまず安心。

帰り道の途中で給油し、そのまままっすぐ帰路に着いた。




第2章 完


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